宣伝用のコーヒー伝説
それではそろそろオリエントのイスラム社会で、どのようにしてコーヒーが飲まれるようになったのかを調べてみましょう。
ご存知の方も多いと思いますが、コーヒーの起源にまつわる話しは2つに大別できます。
一つは、”ある日、放牧していたヤギ達が笛を吹いても集まってこず、あちこち探してみると、赤い実をつけた木の周りで葉や実を食べて元気に跳ね回っていた。それを見つけたカルディが自分でもその実を食べたところ不思議な力を得て、もう2度と疲れたり不機嫌になることはないように思われた。その噂が広まり、エチオピアでは大切な木として扱われるようになった。”という「エチオピアのヤギ飼いカルディ」の話しですね。
この伝説は、ヨーロッパのキリスト教社会でコーヒーが飲まれるようになってから作られた宣伝用の話しなんです。中公新書「コーヒーが廻り世界史が廻る」によると、17世紀のナイローニという東洋学者が作った話らしいですよ。
なぜエチオピアが舞台かというと、この国は古くからアフリカで唯一のキリスト教国家で、コーヒーの発祥地として考えられていたからですね。そしてイスラム圏ではこのように話の中にヤギが出てくる伝説は見当たりません。
一方同じように、イスラム社会で作られた宣伝用伝説が「聖職者シーク・オマール」の話しです。オマールはモカに住んでいた実在の人物といわれていますが、13世紀もしくは15世紀初めの人ですから、それ以前の9世紀にアラビアの賢者とされるラーゼスがコーヒーノキの古い名称「バン」についての記述をしてることを考えると、モカ港がヨーロッパへのコーヒー交易の出荷港であったというコマーシャル説にやはり一票ですね。
”アラブの偉いお坊さんオマールが、メッカへ巡礼に出かける途中でモカの町へ立ち寄り井戸を掘ったら聖水が湧き出た。ちょうど流行り病がモカの町の人々を苦しめていたので、その聖水を飲ませて治した。その噂を聞いた土地の領主が娘の病も治してもらおうと数日間オマールに預けた。その後、娘は治って帰ってきたがオマールとの噂話しが広まり、怒った領主はオマールを追放した。弟子のウザブ達と山中で暮らしていたオマールは食べるものがなくなってきたときに、野生の赤い実をつける木を見つけ、実を食べたり茹でたりしていた。そのうちまた町中に流行り病が広がって、オマールのことを憶えていた人々が山中へ訪ねてきて乞うので、その果実を煎ってすり潰し黒い液体を作って「これはメッカの聖水ザブザブと同じ霊験ある飲み物だ」といって飲ませて治した。”という話しです。
なぁーんだぁ、宣伝用の話かぁ・・・とガッカリしちゃいましたか。^^
特に聖職者オマールが登場する話は、イスタンブールに世界初の珈琲ハウスが誕生してから凡そ30年後の1587年にシェーク・アブダル・カジが「アラビアの手書き本」の中で紹介した伝説ですが、その内容は少しずつ変えられていくつかのパターンに分かれて発表されたりしてるようです。
でも間違いなく、コーヒーノキの赤い果実に含まれてるカフェイン効果を見つけて珍重したことは確かです。その効果を最初に見つけたのは、やはり今のエチオピアに住んでいた原住民の人たちだったと思います。
ただし、その当時のコーヒー果実の利用飲用方法は少し違っています。 私たちはコーヒーノキの果実の種子を取り出して、煎ってから粉に挽いてお湯でコーヒーを淹れますが、そのような利用法は最初からあったわけではないんですね。
どのような方法で利用されていたかといいますと、現在でもエチオピアに住む遊牧民族のガラ族にその利用方法がみられますが、コーヒーノキの実を果肉ごと潰して、動物の脂を混ぜて団子状にして携帯食として持ち歩いたり、果実を煮出してその汁を飲んだりしてます。
そのような飲用方法は、イスラムの聖職者で最初にコーヒーノキのカフェイン効用を見つけたスーフィー派の僧侶達も行っていたのです。
この辺りの話しはまた後ほど話しますが、アラビア半島の南端のイエメン(あの美味しいモカマタリが採れる)では、今でもコーヒーというと種を取り出した後の外殻を煎って、ジンジャーやカルダモンの香料を入れて、砂糖を加えて煮出したものを飲んでいます。それはコーヒー豆が輸出用で、残りの外殻を国内消費してるわけでなく、外殻を使って淹れた「ギシル・コーヒー」のほうが人気が有るからなんですね。 その証拠に、イエメンでは一杯の値段は普通のコーヒーとギシルコーヒーは同じなんです。
ではまた。
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